他者を深く理解できたとき、
自分の生き方が変わる
哲学科 准教授
君嶋 泰明
横浜国立大学工学部卒業後、京都大学文学部に学士入学し同大学院で博士号を取得。20世紀ドイツの哲学者マルティン・ハイデガーの思想形成を研究してきた。現在は彼の戦後のテクノロジー論が主たる研究テーマ。
私も友人たちのように熱中できる何かを一つ見つけ、それに打ち込む生き方をしたい。そう考えていた学生時代に、20世紀ドイツの哲学者マルティン・ハイデガーに出会いました。以来、彼の原点であるキリスト教の思想や古代ギリシアの思想、同時代の哲学潮流が彼の思想形成にどのように関わっていたのかを研究してきました。神を求めつつ神に背いてしまう人間。万物のはじまりを問うてきた人間。テクノロジーに翻弄される人間。これらの互いに無関係な「点」のように見える人間観が、ハイデガーの視点に立つと「線」で結ばれます。こうした表面には現れない深いつながりを見抜けるようになることがこの研究の面白さだと感じています。また、ハイデガー研究を続けたことで、自分の人間観も更新されました。熱中することは一つである必要はなく、研究・教育や家族との時間、趣味など、さまざまなことを等しく大事に思う自分自身を、認められるようになったのです。
法政大学が掲げる実践知とは、自分の置かれた状況で最善の選択を見抜く「知」であると思います。そのためには、人の考えや価値観を考慮することが不可欠。哲学科で学べる実践知の一つが、この他者理解です。古今東西の哲学者や思想家の言葉に耳を傾けることは、他者の考えを粘り強く理解しようとする姿勢を育みます。また、そのようにして難解な思想が理解できるようになるとき、しばしば自分の考え方そのものも以前のものではなくなっています。他者理解のプロセスにおいては、同時並行的に自分も変わっていくのです。このことを身をもって知れるのも、哲学を学ぶ一つの意義だと思います。
哲学は、物事を深く考えたいという人にとことん付き合ってくれる学問です。日本や西洋などさまざまな哲学や思想を専門とする教員のもとで考えられる問いは無数。だからこそおもしろい。そんな哲学を学んでみたいというみなさんと、一緒に勉強できるのを楽しみにしています。